という噂はウソではない。実際にモテる。
ちょっと若いというだけでたちまち人気者になれる。少々顔が整っているだけでチャン・グンソク並みにキャーキャー言われている。女子大という閉ざされた世界の中に舞い降りた天使(♂)に、異性に飢えた少女たちは群がり、崇め称える(ときに貪る)のである。
私は蒸し暑い6月の午後、先生のことを見つめていた。そのクールなお顔ではなく、その厚い胸板でもなく、ズボンの前の方をずっと眺めていた。
先生にはチャラチャラした雰囲気が全く無い。どちらかというと暗い感じがする。ぼそぼそと喋るし、いつも自分に自信が無さそうだ。しかし、先生はそんな内面に似つかわしくないセクシーな外見を持っている。鷹のような目つき、真っ直ぐ通った鼻筋、薄い唇・・・・見ているだけでクラクラしてくる。その無造作に散らばった黒髪は、特にアレンジしているという風でもないのに芸術的にキマっている。著名人に喩えると、大沢たかお、または真田広之といったところだ。
先生はいつもダークスーツを着ている。ノーネクタイである。黒スーツを着た真田広之が女子大の中に・・・・小鹿がハイエナの群れの中にいる状態である。6月になると先生はジャケットを脱いだ。白のワイシャツ姿(開襟)である。私の理性は室伏に全力で投げ飛ばされて見えなくなった。ぴったりとしたワイシャツとパンツに包まれた身体のその逞しさは、隠そうとしても隠し切れていない。決して「痩せ型」とは言えないその体つき、るろうに剣心に出てくる、「式尉(しきじょう)」のようだ(身体だけ)。
あ、顔と身長と雰囲気は同アニメの「四乃森蒼紫」にも似てる。
きっと学生時代、ラグビーか何かやっていたに違いない。胸板は厚く前に張っていて、腕は筋肉でがっしりと太い。開いた襟のところから、男性フェロモンが絶えず放出されている。授業に集中出来ない・・・。
身体はがっちがちのスポーツマン、顔は大沢たかお、そして性格は暗めで学問オタク・・・何が言いたいかというとつまり「最高」ってことです。
暑そうにハンカチで汗を拭きながら登場してくる姿を見てはこちらまでHOTになってくる。「僕にはいま0歳8ヶ月の子どもがいるんですが・・・」という先生の言葉を聞けば、逆算して先生が奥さんと○月頃に××している姿を想像してまたHOTになってくる。
授業中の大半は、ズボンの前あたりを見ながらイヤらしい妄想をしていると断言してしまっていいだろう(いいのか)。
いつも先生の姿をクリアに観察できるよう、一番前か前から二番目の席に座っている。
授業が終わり、自分の中の抑えきれない思いをどうしてよいか分からず、私は先生の方につかつかと歩み寄っていった。
「せんせい・・・・」
私は上目遣いで、先生の整った顔を見上げた。
「ん?」
大沢たかおが優しく微笑んでいる。どうしよう。ハアハアしちゃう。
「あの、あの・・・わたし・・・・」
「・・どうしたの?」
「年金を・・・払ってないんです」
「え・・・払ってないの?」
私は年金を滞納していた。将来返ってくるかも分からないお金を手放す意味が分からなかったのだ。滞納のし過ぎで役所からは封書は届くし、催促の電話もかかってきていた。学生の間は払わなくていいという手続きをすればいいのだが、面倒くさくてやっていなかった。
「せんせい・・・年金って、払った方がいいんでしょうか?」
「年金はね、払った方がいいです」
「でも、全額返ってはこないんですよね?」
「うん・・・全額返ってくる可能性は低いね」
「じゃあ、何のために年金を払うんですか?道徳とか、倫理的に払った方がいいから払うんですか?」
「う~ん、そこが難しいところなんだよね。動機付けをどうするかっていうところがね・・・」
「役所から、年金払えって電話がかかってくるんです」
「え・・・電話が来てるの?(笑いながらちょっと引いてる)」
私「とりあえず今度市役所行って来ます」
式尉「うん・・・頑張ってね(笑)」
目の前に急にタイプの男性が現れたときや好き過ぎてどうしようもない人と対峙するとき、私は全然関係ない変な話をしてしまうことがよくある。照れ隠しである。好きなんだけど、どうしたらいいか分からない。拒絶されるのは怖いけど、とにかく何か接点を持ちたい・・・・そういう気持ちから奇行に出てしまうというパターンがよくある。
年金を国に払う代わりに先生にお金を払って、膝枕に寝っ転がる私の頭を撫でながらマンツーマンで講義してほしいんだけど。ダメかなあ・・
あつくなってきちゃった。