「ジー」と聞くと「韓国のアイドルが歌ってる曲の名前かな」とか「自家発電のことかな」とか「家の中に佇んでいる翁のことかな」と思うかもしれないが害虫のほうである。
害虫のGが出たのである。
5年以上もこの部屋に住んでいて今まで一回も遭遇しなかったのに。
姉から「4階以上の高層階になってくるとGなんか出ないよ」と聞いて安心していたのに。
『何か動いているなあ』と思ったらG。恐怖でしかない。
Gが出ると生活の全てが「どうやってあいつを牙城から追い出すか」にシフトする。それまで抱えていた心配事も悩みも吹っ飛んでしまう。Gが人類にもたらす影響力は凄まじい。だてに何億年も生き抜いてない。
Gのために時間と金を使うことは頭に来るがこのままでは夜も眠れないので即ドラッグストアに行った(Gスポットであるキッチンの脇を通るとき気が気ではなかった)
いつも思うのだが、Gを駆除するための薬品にGの絵を描く必要はない。Gが嫌で嫌でたまらないから殺虫剤を買うのに、そこでもまたGに遭遇してしまう。二重のダメージ。
わたしは自宅に戻ると一心不乱にこの噴射剤を噴射した。狂気にも似た何かだ。
あたりかまわず噴射していたら、キッチンのどこかにある火災報知機のようなものがけたたましく鳴り始めた。火災ではない。やめてくれ。
Gは小さかったし、キッチンの無数の障害物の陰に隠れているのか姿は発見できなかったがきっと身悶えているに違いない。それにこの「●キジェットプロ」は撒いておくだけで待ち伏せ殺虫してくれるらしい。なんて頼もしいのだろう。まるで晩年の江戸に暗躍した人斬りのようである。
人斬りを配置しておくだけではまだまだ不安だ。そう思った私はこのスプレーの隣に陳列されていた「ホウ酸団子」も購入した。パッケージはポップだが、要約すると「おびき寄せ食らいついたが最後、一家まとめて皆殺し」と恐ろしいことが書いてある。これは効きそうだ。
ホウ酸団子を開封すると凄まじい匂いがした。ポテトチップスのような匂いがする。これがGの好きな匂いなのか…実を言うとちょっと美味しそうな匂いがした。そして「Gと好みが一緒」ということに愕然とし、萎えた。もうポテトチップスなんか食べない。
キッチンに二箇所もホウ酸を設置したので多分これで安心。
Gが出たとき「ぎゃあ」とか「キャー」とか「いやーん」だとかメジャーな叫び声ではなく変な音が出た。具体的に言うと
「ん‶ん‶んんんんごああ」
というような音が出た。
「あの家ではきっと鳥を絞めているに違いない」とご近所に思われたことだろう。
引っ越したい。