旅は道連れ世は情け
渡る世間に鬼はない
橋田寿賀子が笛吹けば
泉ピン子が踊り出る
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時代は、平成。
学園闘争も竹の子族のダンスパフォーマンスも今の日本にはもう、無い。
「無気力・無関心・無感動」「ゆとり」「草食系」・・・
「若い頃はヤンチャしました」が口癖の赤ら顔親父たちによって勝手に名付けられた私たち若者世代は、あたかも日本全体からその「慎重で堅実な」生き方を否定されているかのようだ。
無茶をして騒ぐ上の世代の痴態を見てきた私たちはあくまでその二の舞になることを避けているだけだ。バブルの時とは全く違う茨だらけの世の中で賢く生きようとしているのである。つまらんオヤジの武勇伝は聞き飽きた。
ゲレンデが溶けるほどの恋もしたことないし、夏の日の1993年なんてまだ乳飲み子だった。情熱的な恋よりも効率的な良い出会いが欲しい!そんな私たちにピッタリなお店が「相席屋」なのです。
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主な登場人物
「暇な女子大生」というスケベなオヤジが寄ってきそうなズルい名前でブログを書いている20代半ばの女。性格は暗いが性欲は中二の男子並み。出会った人全員に「人当りが悪いね」と言われることが悩み。作家になることが夢なのに今まで書いた作品はBL風のミステリー小説一本のみ。自分にはとことん甘く、他人には鬼のように厳しい。メガネ男子が好きなのかメガネが好きなのか分からなくなることがある。
キャバクラ嬢H。暇な女子大生とはパッと見全然タイプが違うので一緒にいると色んな人から「二人は本当に友だちなの!?」と疑いの目を向けられる。数々のエロスポット・面白スポットを知っていて暇女をちょくちょく誘い出してくれる。辞めたり戻ったりを繰り返しているので、現役キャバ嬢なのか元キャバ嬢なのかよく分からない。意外と根はマジメ。
「知らない異性とイキナリ相席できる」という触れ込みで日本中をざわつかせ、今やメディアに引っ張りだこの居酒屋。「女性は何時間いても0円」という若干の胡散臭さが「自称常識人」のオトナたちにはどうも引っかかるようで、「スッキリ」内で加藤浩次にdisられている。キャスティングや日取りなどの手間をかけずにいつでも即席の合コンが出来るということで連日大繁盛。
メガネ男子を引き当てた前半戦
メガネ男子と相席できたものの盛り上げることが出来なかった我々。電話番号だけ交換してサヨナラした。
「ガッツリ好みのタイプだったのに人見知りして喋れないとか自分アホ過ぎる死のう。」
「おいまだ一組目だろそんないきなりテンション落とすなや・・・」
店員「二組目の男性たちのご到着です!」
「どうも~」「はじめまして!!!!」
H「こんばんは~!彼氏?いないいない。よろしくね!」
『えっ・・・』
「ほいじゃあまずはお兄さんたちの経験人数から聞かしてもらいまひょ」
『こいつ・・さっきのメガネ男子の時と全然違うな・・』
「おっ?!」
「おねーさん・・」
「イケる口だね・・!」
いま気づいたけど「イケる口」って言葉エロい。とにかく二組目の男性たちがあまり好みでなかったのでリラックスしてお喋りできた。彼らの職業は都庁職員と研修医ということだった。本当かどうかは謎だ。
「現在の都知事はどうですか?」と聞いてみたら、「石原、猪瀬、舛添と三人の都知事の下で働いたけど、今のところ舛添がイチバンいい感じだよ」とのことだった。なんかやりやすいらしい。
でもやっぱり今度も大して盛り上がらなかった。普通の合コンだったら共通の友人とかいるからその辺からどんどん話が広がるかもしれないが、相席屋で出会う異性は本当に何のとっかかりもない知らない人なので色々困った。毎回自分たちのことを説明するのもわりとダルかったりする。
疲れていたがそのまま第3ラウンドに突入
「じゃ、俺たちそろそろおいとまするわ」という男性たちを見送って我々はテーブルに残った。
H「まあまあイケメンだったね。ていうか、なんかハズレっぽい人来ないね。」
暇「うん・・・わたし、パソコンいじっていいかな」
疲れたのでバッグにいつも忍ばせているノートパソコンを取り出して2ちゃんねるを開いた。
「好きだね、パソコン」
店員「3組目の男性のご到着です!」
「あ、ども~ お疲れ」
3番目に我々の前に現れた殿方は自分のことをカッコよくてイケてると思い込んでいるおじさん(と、その弟子のサラリーマン25歳)だった。
おじさんは年齢を33と言っていたがどう考えても40以上に見えた。プライドばかり高く非難されたら全力で自衛に入り他人に馬鹿にされていることに一つも気づいておらず延々と己の自慢話(求められてない)を繰り広げるこのタイプのおじさんは今までの人生の中でよく遭遇してきたので私は『ああ、まただ』と感じた。
分かりやすく例えると、仲間にハブられて追い出されただけの部活や会社を「俺、アイツらの間違った方針に耐えられなくなって辞めてやったんだよ」と言い張るタイプの男性だ。
このタイプの攻略法は至ってシンプル。とにかく話を聞いてあげて、適当に肯定し、褒める。これだけでいい。
席に着いた途端自分がいかにすごいか過去いかにすごいこと・ムチャなことをしでかしたか、いかに強大な権力と自分が繋がっているかなどを矢継ぎ早に話し出したので私は相手が一番気持ちよく喋れるような相槌を打ち、黙るところは黙って聞いた。キャバクラ嬢のHが「相席屋は無料の素人キャバクラと一緒だよ」と言っていたのにも納得がいった。
メガネ男子やイケメン都庁職員・研修医の時は緊張したし相手が私たちのことを『変なのに当たったな』と思っているような気がして落ち着かなかったが、今度は安心だった。おじさんはただただ自分の話を誰かに聞いて欲しいだけなので私たちのことを品定めするとか評価するとかは特に頭にないようだった。
そのうちおじさんが「相席屋を出てどこかで飲もうよ」と言い始めた。色んな意味で一緒にいてラクだったので私たちもすぐに「いいよ」と言って席を立った。
会計の時、わたしとHは食べ物代約1000円ずつを払った。19時から23時まで滞在して1000円。おじさんたちは同じくらいの滞在時間でひとり9000円くらい払っていたので少しビビった。店の外まで相席屋に入りたい男性の列が出来ていた。数時間待ちらしくてまたもビビった。
「おねーさん、怯えないで~☆」「今夜は、飲むっきゃナ~イト!」
店を出て向かった先はキャバクラ嬢Hの行きつけのオカマバーであった。人の話を聞くプロであるオカマの方たちに向かっておじさんは水を得た魚のように喋り始めた。Hは完全に酔っ払い、他の男性客に壮絶に絡み始めた。おじさんの弟子であるサラリーマンはその素朴な容姿がゲイの方々に大ウケのようで四方八方から口説き落されんとしていた。わたしは店備え付けのカラオケで「Let It Go」を歌ってみたが、ありのままの私を見てくれる人間はその時その場に誰一人としていなかった。
【相席屋渋谷店まとめ】
暇な女子大生から見た相席屋
思っていたよりはいかがわしくなかった。ご飯を頼むときに相手に払ってもらうか自分の伝票で頼むかの駆け引きが難しいと感じた。恋の相手を見つけるんじゃなくて、単なる飲み友達を見つけるとか、人脈をつくるなどを目的に設定すればもっと自由な気持ちで楽しめるのではないかと思う。
Hさんから見た相席屋
店にいた何人かの女性客は、自分が働いてるキャバクラが開店する前に遊びに来てるキャバクラ嬢だと思う。相席屋で引っかけた男を自分の店に引っ張り込む営業活動としても使えるから、そういうキャバ嬢たちの温床になりそうな予感もある。赤羽店よりは渋谷店のほうが客層はまともだった。
まとめのまとめ
店ごとに雰囲気が違うみたいなので歌舞伎町店や吉祥寺店、六本木店などの様子も見てみたいと思った。ほとんどの客が友だちと二人で来てるので、単独で店に入るのはやはり勧めない。多分1人で行くと、同じように1人でやってきた同性の客とペアを組まされるのだと思う。ただ1人客はそんなにいなかった印象。男2人対女3人のテーブルを見たが、3人目の女はソファからお尻がはみ出ていたしやりにくそうだった。ほとんどの客は「ネタになりそうだから」という軽いノリで店に来ている。
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